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語ることと語らないこと(國分功一郎『哲学の先生と人生の話をしよう』を読んで)

 

哲学の先生と人生の話をしよう

哲学の先生と人生の話をしよう

 

 

〇概要

メルマガで連載していた、哲学者・國分功一郎の人生相談コーナーのまとめ本。

相談相手の文面を、まるで哲学者が書き残した文章のように一つのテクストとして読解(あとがきより)

している点が最大の特徴。

 

〇感想

相談内容への著者の回答を読むと、いくつかの特徴に気づきます。

それらを

  1. 相談者が「語らなかった」ことの重視
  2. 具体的な出来事・問題の記述の重視
  3. 「相談する」という行為自体の意味の重視
  4. 「誰かに(と)話す」ことの重視

 の4点にまとめようと思います。

 

☆1.について

書かれていることだけを読んでいてはダメである。途中で気がついたのだが人生相談においてはとりわけ、言われていないことこそが重要である 。人は本当に大切なことを言わないのであり、それを探り当てなければならない。(あとがきより)

クソみたいな感想で申し訳ないが、「ほんと、そうだね」と思いました。

「結婚生活」に関する悩みなのに妻のことがほとんど書かれていない質問6や8がこれにあたります。

 

多くの場合、「語ったこと」は「知ってほしいこと」であり、「語らなかったこと」は「隠したいこと」な気がします。

人間がわざわざ隠してることなんだから、その人にとって重要なことなのは自明でしょう。

そして、それこそがその人の悩みの突破口となり得るのかもしれません。

 

☆2.について

どんな悩み(問題)も一般的 ・抽象的である限りは解決しないのです。いかなる問題も個々の具体的状況の中にあります。そして個々の具体的状況を分析すると、必ず突破口が見えてくるのです。

しかし、悩み(問題)が一般的・抽象的である場合には、そうやって分析する情報がほとんどない。だから、Aとも言えるがBとも言えるというような対立に陥ってしまって、答えが出ない。(質問24より)

きっと、研究者である著者の仕事もそういうものなのでしょう。

問いを具体的にしないと(ロジカルシンキング本的に言えば、ブレイクダウンしないと)答えが出せません。

 

僕が卒論の構想を練っていた時も、最初の問いが壮大過ぎて、とても答えが出そうなものではありませんでした。

ゼミや先生との議論の中で、何とか書けそうな問いまで持っていくことができました。

(その他色々な面でショボい卒論になってしまったけど…)

 

話を戻します。

この本では、このような研究における「問いを明確にする」手法を、人生相談に当てはめているように感じました。

 

☆3.について

著者の回答をいくつか読むと、

「そもそもこういう相談をしているということ自体、◯◯さんが△△と思っていることの表れでは?」

という論法が多いことに気付く。

 

例えば質問14では、相談者は恋人がいながら風俗に通ってしまう自分の行動に「罪悪感は無い」と書いているが、そもそもその事について相談している時点で「悩んでいる」ことは明白であり、「いけないことなのかもしれない」と思っているのではないか?という具合である。

 

この点に関しても、文章の内容だけでなく、それが書かれた背景まで考察対象にする「研究者っぽさ」を感じました。

 

☆4.について

著者が提案している、相談者が現状から抜け出すための方策には様々なものがあります。

その中でも多いのが

「誰かと話す」「誰かに相談する」

というものです。

「つらいことは人に話すと楽になる」ということを繰り返し強調しています。

 

この点については、質問28「相談というのは、どうやってすればいいのでしょうか?」に詳しく書かれています。

著者は「相談」という行為を「観念の物質化」と言い表しています。

頭の中の言葉を、口に出すことで形にするイメージでしょうか。

「相談する」と考えるのではなく、「とりあえず考えていることを形にしてみる」という感覚で誰かに投げかけてみることで、「誰かに話す」ことの効用を実感できる、というようなことを言っています。

 

では、「相談する」となぜ楽になるのか。

著者によると、この謎は哲学的には全く未解明だそうです。

個人的には、頭の中で考えていることを言葉にする(物質化する)ことで、問題の輪郭がはっきりして扱いやすくなるからでは…と思ったりしますが、いまいち抽象的で上手く説明できません。

この謎については、これからも考えていきたいです。

 

◯まとめ

全体を通して言えるのは、著者は相談者が語ったこと(あるいは語らなかったこと)から様々な事を読み取っているということです。

そこには、哲学者の言葉を読み取ってきた著者の哲学者っぽさが出ているように思います。

 

色々な相談がありましたが、どれも生々しくて、どこか自分に当てはまるものもあったりして、読みながら終始自分のこれまでの行動を振り返っていました。

オススメの本です。